8.約束

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GWを過ぎると、直ぐに退院が決まった。 今度こそは、医師も太鼓判を押した。 身も心も、晴れやかな気分だった。 退院の日、夜勤明けの持田さんが顔を出した。 「もう、こっちには来ない様にな!」 持田さんは笑っていた。 こんなに良くしてくれた看護師はいない。私は持田さんとの別れを惜しみつつ、笑顔で病院を後にした。 本当に、この病院は良い病院だった。 私の我が儘にも、色々と対応してくれた。 私の自己判断で問題を起こしてしまったけど、それでも病院の方々は私を責めることはしなかった。 いつも優しく受け入れてくれた。 この病院で良かった。 心から感謝したい。 これからも、定期健診でこの病院に来るだろう。 私は、神戸の街や、人が好きだ。 定期健診ですら、楽しみに思えてくる。 そういう場所を、私に与えてくれてありがとう。 私は未だに神戸に『定期健診に行く』とは思えず、 毎度『神戸に遊びに行く(検診はついで)』だと思っている。 いつか、蒼太と一緒に行けるといいな。 そんなことを考えながら、迎えに来てくれた両親の車に乗り込む。 いつもと変わらない、この雰囲気。 それがなんだか嬉しくて、私は一人ニヤける。 ああ、私は家族が好きだ。 いつも私の我が儘に振り回されつつも、怒りながらも支えてくれる。昔からそうだった。 私はいつも、家族に甘えていた。 (蒼太くんを紹介したら、きっと驚くよね。) 少しだけ想像しただけで、顔から火が出そうだ。 当日は、私の方が緊張しそうだなぁ、と考える。 そして、いつかは私も蒼太の家に挨拶に行った方がいいだろう。そんなことを考えている自体が、夢の様だった。 私は、蒼太にメールを送る。 『本日、退院しました。 今、家族で地元に向かっています。 蒼太くんを紹介する日が近いと思うと、今から緊張します(笑) いつか、蒼太くんのご家族にも、挨拶に行けるといいな(*^^*)』 私は携帯を閉じて、車の窓越しに空を見る。 5月にしては暖かく、私の心はウキウキした。 これから向かえる未来が、想像出来ないほど素晴らしいものになると信じていた。 今までの、葛藤も苦しみも痛みも、全て消えてしまった。 私の手の中にあるのは 抱えきれない程の 『幸せ』だけだった。 【約束 終】
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