4.20歳の話

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もともと、私は男性に慣れていない。 電話で話すことも殆どない。 でも、子供の蒼太にはそんな情けないこと バレたくなかった。 「もしもし。モカさん? ……………やっと電話できた(笑)!」 そう言って笑った。 彼は感情に素直で、真っ直ぐで、 私には眩しい。 一緒になって笑えたら、どんなに幸せだろう。 感情を正直に出すことの難しさに、 悩んでばかりの私には、到底無理な話だった。 「………突然の電話でごめんなさい。 加奈から電話があって、今モカさんと一緒って 聞いたら、居ても立ってもいられなくて……。 迷惑ですか?」 蒼太なりに何かを考えているのだろうか。 急にしおらしくなり、声のトーンが下がる。 彼なりに、私がアドレスを教えなかったことが 堪えているのだ。 簡単に連絡できなくしたのは、私だ。 「迷惑です」なんて言えるはずもなく、 私の感情を伝える、真っ当な言葉を探した。 でも、どれも不確かで、 的確なことは何も言えなかった。 「………………大丈夫だよ」 この一言が精一杯だった。 その言葉に、蒼太が笑った。 電話だと、耳元で囁かれている様な感覚に陥り くすぐったくて、私の心を掻き乱す。 「良かった! モカさん、俺のこと、覚えていてくれた?」 自信のある人は違う。 絶対に自信の無い人は、恐ろしくてそんなこと 聞けない。 忘れられることなんて、無いのだろう。 それは悪いことではない。 そんな幸せな環境にいられるのだ。 蒼太と住む世界が違うのだ、と教えられる。 「覚えているよ。 そこまでバカじゃないよ。」 私なりに、無理して冗談を言う。 それを感じ取ったのか、蒼太は「ははっ」と笑う。 電話越しでも、彼の持つ優しい雰囲気が伝わる。 蒼太は、誰からも愛されてきたのだろう。 そういう雰囲気のある人だった。
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