1.20歳の話

2/2
919人が本棚に入れています
本棚に追加
/188ページ
この頃の私は、 それなりに充実した日々を過ごしていた。 高校を卒業後、地元ではそこそこ大手の企業 (高卒の中では、良い会社だという事)に就職して、 進学した同級生や、同僚とも仲良く遊んでいた。 私は、高校を卒業した時に 「病気の事は極力語らない様にしよう」 と、密かに心に決めていた。 それまでの、周りの好奇の目や中途半端な同情に 多少疲れていたのかもしれない。 友達はそんな私の気持ちを理解してくれ、 私を病人扱いする事は少なかった。 仕事も、 無理のない程度に、一社員として雇用してくれた。 日々、充実していた。 病気というだけで、 『楽しんではいけない』 という呪縛から解き放たれ、 遅咲きの青春を楽しんでいたのかもしれない。 友達がいて、仕事があって、 私は幸せだと思った。 周りの人達が恋愛を謳歌する姿を見ても 「私には関係のないこと」なのだし。 小さな頃にテレビで見た、 「嫁に望むのは、健康体であることだけ」の一言に スタジオが「良いお姑さん」だと騒いでいた、光景。 私は落ち込んでしまった。 私は、結婚を望んではいけない人間なのだ、と。 そこで、私は勝手に決めてしまったのだ。 "私は恋愛をしない。傷付かない。傷付けない。" 悲しい感情は、幼い心に強く刻まれ、 何年もの間、私は囚われていた。 20歳のこの時も、私は守っていた。 "体の弱い人間は、恋愛できない"と思っていた。 こんな私が人を好きになるのは、もう少し先の話。
/188ページ

最初のコメントを投稿しよう!