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むう、と細長い眉間に皺を寄せてぶつぶつと呟くその口調はどこか古めかしい。男がその場に腰を下ろし、背中の荷物袋をどさりと下ろすと、唖然とする娘の前で何やらごそごそと中から取り出し始める。
「あ、あの………?」
「何だか良くわからんが………これを、食べると良い」
彼女の前に突き出されたのは干した果物だった。反射的にそれを受け取りながら硬直する娘に、
「それと、この季節にその服は寒かろう」
背中に纏っていた大きなマントを差し出す。
「え、その、あなたは………」
「む、もしやドリアードは果物を食べないのか? そういえばドリアードは木々の精霊だと言う。ということは、木から採れたものを食べればやはり共食いになるのか」
この状況を全く理解出来ていないドリアードの娘がマントと男を交互に見たその時、森の木立の向こうから木の枝を踏みしだく足音が響く。手にしていた干し果実を思わず取り落とし真っ青になって立ち上がった娘を見て、男は真顔のまま言った。
「あれが貴様の追っ手とやらか。まあ良かろう。かぶってろ。それと、動かないでいろ」
いきなり問答無用で古ぼけた大きなマントを頭から被せられ、思わず小さな悲鳴を上げかけた途端、マントの中にくるまれた彼女の体が足下から宙に浮く。マントの中にくるまれて担ぎ上げられた次の瞬間、
「誰だ!」
紛れもなく響いてきたのは、聞き覚えのあるリザードマンの兵士達の野太い声だった。
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