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「何だ同族か。何だお前のその格好は。こんなところで何をしている」
「私か? 私は見ての通り、旅の詩人だ」
「詩人だと?」
荒々しい兵士達の嘲り混じりの声に肩を竦めたのか、この『詩人』と称したリザードマンの肩の上で、丸で荷物の様にくるまれた娘の体が微かに揺れる。
「何かあったのか。この山は平和だったはずだが」
「奴隷が逃げ出してな」
「奴隷?」
「ドリアードの娘だ。この辺りに逃げ込んだはずなんだが」
「全く持って知らんな。私は今から下山するところだ」
『詩人』が慇懃無礼に答え、付け加えてやる。
「だが、少し先に洞窟があった。あちらの滝の近くだ。そこを探せばいるかも知れない」
兵士達がそして娘をくるんだマントを軽々と背負ったまま
「お勤めご苦労」
彼らの横を堂々と通り過ぎて行こうとする。
「待て」
「何だ?」
「随分と大きい荷物だが」
「新鮮な鹿肉だ。山の狩人に頼んで皮を剥いだ後だからな。布にくるまねば傷む。何でも麓の城主は気難しい食通らしい。宴に参上するついでに、詩人として取り立てて貰おうと思っている。先を急いでも良いだろうか? 折角の袖の下が腐っては話にならん」
彼を呼び止めた兵士達が笑い出した。
「せいぜい頑張るんだな。詩人」
「そちらこそ」
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