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「お部屋は1室で宜しかったでしょうか」
リザードマンの宿屋の主、そして回りにいる宿泊客達が好奇心を抑えきれない目で、この美しい娘と風変わりなリザードマンに遠慮のない視線を浴びせかける。
「良いだろうか?」
いきなり話を振られた娘が、目を丸くして反射的に首を縦に振る。
「だそうだ。それと食事は良いものを。ああ、出来れば浴室のある部屋へ」
受け取った鍵を爪先で弄びながら、彼は娘を連れて2階へ上がり、部屋へ入る。そして、ふうと一息吐いてから、頭のターバンをゆっくりと解きながら言った。
「大切な事を言い忘れていたが」
「は、はい」
「ハジム・ソジェンヌ。私の名前だ」
不思議な響きだ、と娘は目を瞬かせる。
「育ての親は人間だった。山に捨てられていた私を育ててくれた。だが亡くなり、埋葬も済み、1年が経った」
表情の動きこそ小さいものの、喋り方に独特のリズムがある。詩人、というのに偽りはないのだろう。
「山から下りたのは初めてだ。それで、初めて会った人間が貴様ということになるな。いや、貴様は人間ではないが………」
ハジムと名乗ったリザードマンの詩人は問うた。
「貴様、名前は?」
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