恩師の贈り物

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 私が卒業するその日だった。 大変お世話になった恩師が真っ直ぐに向いてこう仰った。 「これからのキミへ」  手渡されたのは見るも立派な表紙の本だった。 時に厳しく、また或る時には厳しく、そしてどこか温かった恩師…  私のこれからの為に選んでくださった立派な本を恭しく受け取ると深々と頭を下げ私は巣立って行った。  身寄りのない私が施設の部屋で一人開くと驚くべき事実が分かった。 なんと白紙なのだ!  こんな冗談があってたまるか、いや違う、恩師の事だ、これは深い意味があるに違いない!  私はしばらく考えた後ようやく思い至った。  何て深いメッセージなのだろう!  それから私は恩師の教え通り何事にもまっさらな気持ちで挑んだ。  何者にも染まらぬ清らかな生き方をした。  つまずいたり、袋小路に入ったり、何か問題に突き当たった時は必ず開き、そこに書かれていない様々な教えを確かに読み取り、人生の荒波をいくつも越える事が出来た。  おかげで今ではいくらか自慢できる地位や立派な家族を持つに至っている。  総て恩師のおかげなのだ。  あれから何十年かして、恩師が引退される噂を耳にした。  私はクラス会を開き恩師を迎えて慰労する事にした。  嬉しい事に恩師は私を覚えていてくださった。  私は恩師に感謝の言葉を言わずにはいられなかった。  「先生の教えのおかげで私はここまで来られました。ありがとうございます!頂いた物は今でも宝物にしています!」  厳しかった恩師は優しく微笑んでこう仰った。  「そうか、良い思い出で満たしてきたようだね。次の機会があったら是非そのアルバムを見せてくれたまえ。」
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