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「お、この本が事実だと認めたのか。いい心がけだ。君は怒りっぽいが、人の話は素直に聞けるんだな」
男が本を閉じると本は消え、男はゴーグルと手袋を外した。
「人は平気で嘘をつく。けれど、自分が取った行動はどれだけ記憶の改変があっても、その行動を起こした、そのようなことを考えたという事実は変わらない。さっき君が浴びた光は、『君がこれまでに取って来た行動と思考の事実』を読み取ることができる光だ。それをコンピューターが処理し、一冊の電子書籍へと作り出すことができる。人間の記憶は脳だけでなく、体も覚えているから全身に光を浴びてもらったわけだ。欠点は眩しすぎることだ」
男は一方的に話している。僕は男の言っていることのほとんどを理解できていなかった。
「これは究極の個人情報だ。自分の生きてきた内容がすべて知られることになるからだ。さて、最終面接における僕からの結果は、君はわが社にふさわしい人物である、ということだが、君はどうする?ちなみに僕は嘘が嫌いだ。それに、僕の手元には君の人生履歴書がある。嘘をついても無駄だ」
男の力強い視線が僕の体を突き刺す。
「あの、ひとつ質問させてください」
「何でもどうぞ」
「あなたは人生履歴書を、どのように使うんですか?」
僕は一番単純な質問をした。
「主に犯罪者を対象に使っている。警察の事情聴取と実際の事実との違いがあった時、人生履歴書が求められている。一般には公開されていない話だが、真実を暴くために、僕はこの機械を開発して、嘘を暴くことを仕事としている。さて、できれば今すぐ結果を言って欲しい。無理ならば今日の面接のことを誰にも言わないと誓約書を書いてもらう必要があるが」
僕は考えた。この男性のさっきの話が決して嘘だと思えなかったし、男性の目の奥に、この仕事への情熱を感じた。
「――決めました」
僕は男性と目を合わせてはっきりと言った。
「ようこそ、わが社へ。歓迎するよ。僕は社長の――」
社長はにこやかに手を差し出した。
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