人生履歴書

7/9
前へ
/9ページ
次へ
『もしもし、聞こえていますか?』 「はあ!?」  僕は不意に聞こえたマイクの声に八つ当たりした。 『まあまあ落ち着いてください。そのまま扉と反対側の壁を見てください』  僕は勢いよく振り返る。そこは白い壁だったが急に透明なガラスに変わり、その向こうにはさっきまで一緒にいた男性がいた。 『どうも、さっきぶり』  男性はにこやかに話しかけてきた。 「あんた、さっきの――!」 『苛立たせてしまって申し訳ない。最終面接の一環として君が嘘をついていないか試させてもらった』 「嘘って――」 『さっきのアンケートのことだ。君は30問目のところで手を止めた。30問目の質問、覚えていますか?』  30問目の質問を思い出す。 「『あなたは怒りっぽいですか』ですよね。それと何の関係があるんです?」 『わが社は個人情報を取り扱う会社だ。平気で嘘をつくような人だと職務上困ることがある。だから先ほど、もうひとりの女性にも別のシチュエーションで嘘をついていないか試させてもらった。あの女性は非常に嘘だらけで、もうお帰りいただいている。まったく、学歴や友人関係、ほとんどが嘘だらけだった。それに対して君は実に正直で素晴らしい』  男性は手を叩いて嬉しそうに言った。僕は訳が分からず固まっていた。
/9ページ

最初のコメントを投稿しよう!

0人が本棚に入れています
本棚に追加