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「ダイジョウブデスカ? シヨウサマ」
誰かに肩を揺さぶられて、紫陽は目を覚ました。体を起こすと、すぐそばに白兎の心配そうな顔があった。
「私は一体……」
「ホンヲミテイルウチ、キュウニオタオレニナッタ。ワタシシンパイ」
「ああ、大丈夫だ」
紫陽の目の前に赤い表紙の本が開かれて置かれていた。読めないほどのかすれた字の下にはっきりした墨の字で『この国に平和が戻る』と書いてあった。
「これは私が? 」
紫陽が訊ねても白兎は首をかしげるばかりだった。
「もういいよ、私は寝る。お前も自分の宿所へ帰りなさい」
「ハイ」
白兎が退いた後、紫陽は二冊の本を行李に戻す。不思議と晴れ晴れした気持ちになっていた。王都に戻った後のことを今から思い悩むことはない。国王に鰐淵討伐を報告し、必要な行動をとればいい。
大事なのはこの国に平和が戻ること、もし国王が忠臣を成敗しようとして争いを起こすような愚かな人物なら、別な人間が国王にとって代わればいいだけではないか、そうする力は十分持っている、と紫陽は心の中でつぶやいた。
だが、紫陽が気付いていないことがあった。『この国に平和が戻る』の文字が黒々としていること、それはこの願いが実現にはまだ遠く、これから一波乱も二波乱もあることを意味していた。
終わり
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