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紫陽は暫くの間、宙をにらんでいたが、また話しだした。
「はたして都に帰った私にどんな運命が待っているのだろうな。国王陛下は高潔な方だが、歯向かうものには容赦ない一面もお持ちだ。鰐淵が反乱を起こした原因の一つは、父親がわずかな罪を咎められ、陛下に処刑されたことだと言われている」
そこまで話して、紫陽は白兎が微笑みを浮かべていることに気が付いた。
「ソレ……、カコノショ。ワタシタチイチゾクニツタワルモノ」
「え?」
紫陽は本を見直した。
「でも、この国の言葉で書かれているぞ」
「ダレモガ、ジブンノクニノコトバデカカレテイルトオモウ。デモホントウハドコノクニノコトバデモナイ」
おかしなことを言う娘だと思い、白兎を見つめる。
「ホンハ、モウイッサツ、ナカッタカシラ?」
「そう言えば……」
紫陽は行李から一冊の本を取り出した。黒い表紙の本と同じような装丁だが、こちらの表紙は深紅だった。
「こちらはほとんど何も書いてないぞ。最初の頁にぼんやりと何か書いてあるだけで残りは白紙だ」
「ソレハミライノショ。カナエタイネガイヲカケバ、ドンナコトデモジツゲンスル」
白兎の口の端がわずかに開き、その表情は皮肉っぽいものに変わった。
「アノオトコハ、イチゾクカラホンヲウバイ、ジブンノネガイヲカイタ」
「あの男とは逆賊鰐淵のことか、しかしおかしいではないか。どんな願いでも実現すると言ったのに、鰐淵の反乱は失敗して、あいつは命を落としたぞ」
「アノオトコハジブンガオウニナルトハカカナカッタ。カイタネガイハ、イマノオウチョウガメツボウスルコト。ソレハカナイツツアル」
反乱の経緯を考えると鰐淵が王朝の滅亡を願いとして書くこともあり得そうだ、紫陽はそう思いながら赤い表紙の本を開いた。最初の頁に一行だけ書いてある文字はほとんど読めないほどかすれていた。
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