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コスモスの約束
美咲さんの頬が涙に濡れていた。今でも時々夢を見るのだ。それは遠い昔の話。まだ、ティアラがJRの操車場跡で、広大な空き地だった頃の。あの日、約束通りコスモスの咲き乱れるあの季節に美咲さんは一人で立っていた。
奇跡のコスモスを見ようと訪れた見物客の中。たった一人で。
かわいらしい子どもの声で「こんにちは」という呼び声が聞こえてきた。ひかりちゃんだ。
「みさきおばあちゃん、こんにちは」
ひかりちゃんは美咲さんの姿を見るともう一度頭を下げて挨拶をした。美咲さんも微笑んで軽くお辞儀をする。
「いらっしゃい。おはぎがあるけど、食べるかい?」
「ううん。ちょっと寄っただけ」
ひかりちゃんは小学生の女の子だ。学校帰りにいつもここに寄り、縁側に座って5時過ぎまで時間を潰すのが日課らしい。最近やっと会話が出来るようになってきているが、まだ彼女の気持ちは硬いままだった。美咲さんは一度、学校の友達も連れておいで、と声を掛けたことがあるが、首を横に振られてしまった。
「そうかい。じゃあ、遅くならないように帰るんだよ」
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