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そして、名前も知らない彼に呼びかけた。
「何してるんですか」
線路をただずっと眺めていた彼は驚きをその顔に残したまま、美咲さんに視線を移し、「なにも……」とぼそりと呟いた。
「じゃあ、手伝ってくれませんか?」
次の日もひかりちゃんはいつものようにやってきた。美咲さんもそれをいつものように迎え入れる。
「何してるの?」
今夜は炊き込みご飯にお味噌汁。準備は整えており、炊飯器のタイマーをセットさせておいた。美咲さんは、お盆に急須、湯呑を乗せてひかりちゃんのよこにつとと座った。
ひかりちゃんは目を合わせようとはしなかったが、拒絶している風でもなかった。
「今日は秋晴れのいい天気ね」
空は高く、澄んでいる。もうすぐ花開くコスモスが綺麗に映えそうな青い空だ。美咲さんは湯呑を両手で包みながら呟いた。なんだか話したい気分だった。だから、夕飯の準備も整えていたのだ。
「今日はおばあちゃんの話を聞いてもらおうかしら」
美咲さんは不器用に片目を閉じて、微笑んだ。
「これはね、おばあちゃんの内緒の話なのよ」
ひかりちゃんはこくりと頷いた。
きっと、同じ毎日に起きた変化に美咲さんは喜んでいたのだろう。
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