日記という名の記憶

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 嫌な日がとうとうきてしまった。  この日の為にと、数日間徹底的に礼儀作法を見直しされていたおかげでより一層この茶番が嫌になった。少し前になんとか抜け出して、しばらく広場に行けないかも、とヤツに伝えられたのが唯一の救いか。  そう思っていたのだが。 「…初めまして」 「…初めまして」  なんだこの馬鹿らしいやり取りは。  花嫁候補の傍で甲斐甲斐しく世話をするお手伝いさんの一人、それは紛れもなくヤツだったのだ。  まどろっこしいやり取りを粛々と終えたボクは機会を伺ってヤツに接近した。 「何してるんだ?」 「しっー、声が大きい!」  ヤツの声も大概だったが、問題点はそこでは無かったので黙っておく。 「見て分からないかな?あなたの花嫁さんのお手伝いをしている」  確かにそうだ。それは分かる。だが、やはり問題はそこではない。 「ボクが聞いているのは、どうしてあの女の手伝いをしているかだ」 「一応家族だから、かな?血のつながりでは妹にあたるしね」  婚姻相手のお家事情くらい、耳にタコができるくらい聞かされている。だが、ヤツの話なぞ一度もでなかった。 「聞いてない」 「それはそうでしょう。お家の恥だしね。多分、今後も伝えられることは無いと思うよ」  何人かの怪訝そうな視線を感じたので会話をそこで切り上げたが、ヤツの言う通り、婚約者様とお手伝いさんが血縁関係があるという話はされなかった。  どうしてか、とても不愉快に感じた。
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