日記という名の記憶

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 今日、とうとう父に自室へと呼ばれた。  要約すると、今回の婚姻を快く承諾せよという命令だった。  ボクがいつまでたっても曖昧な態度を示していたのが、父の耳にまで入ったのだろう。告げ口したのは誰だと憤りはしたが、後の祭り、近日中に書簡にて返答をするという約束をさせられてしまった。 「書くことがない」  ボクは筆を転がした。実際、書くことがないのだから困る。スパッと断るにも角が立つし、喜ばしいことだと言葉通り喜び勇んでいる母達にも申し訳ない。だが、受諾するにも抵抗がある。  もう夜中だったが、少し頭を冷やすために外に出た。歩きながらどうするかを思案していたら、広場まできてしまった。  ボクは驚いた。  無意識で広場まできてことにではない。  そこにヤツがいたからだ。  寒そうに凍えながら、座り込んでいたのだ。 「おい、どうした?」  ボクは駆け寄り、ヤツに上着をかけた。 「はは、家を追い出されちゃった」  ヤツはそれだけ言うと、ボクの方へと倒れこんだ。  軽かった。  元々小柄なヤツだとは思っていたが、かなりやつれているようで、今にも死にそうなくらい、衰弱しているようだった。ボクは慌ててヤツを担いで、家へと急いだ。
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