大切なあなたに贈る愛の言葉

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 だんだんと靄が晴れてくると、そこが家の近くの公園だということがわかった。小学校も中学校も高校もこの公園の前を通って行くのだけれど、中に入ったのはずいぶんと久しぶりだ。それこそ小学校のときに、放課後まっすぐ家に帰りたくなくて5時の鐘が鳴るまでここで遊んでいた、あの頃以来。家に帰るしかなくて、でも帰りたくなくて友達が帰ってからもずっとずっとここで一人遊んでいた。「まだ帰らないの?」なんて友達に言われると決まって「逆上がりの練習をするんだ」「縄跳びの練習をするんだ」「かけっこの……」なんて言って、次第にみんなも事情を察し始めるのか何も言わなくなった。そして、私はここで子どもが一人でいても不審がられないギリギリの時間まで過ごしていた。おかげといってはなんだけど、鉄棒も縄跳びもみんなより上手にできた。かけっこだけは……どんなに頑張っても早くはならなかったけれど。  そんなろくでもない思い出の公園。とはいえ、今が何時かわからないうえにもやがかかっているような中で一人いるのは怖いものがある。どうするべきか悩みながら辺りを見回す。すると、ベンチのあたりで何かが動くのが見えた。……誰か、いる。  人のような形をしたそれは、もぞもぞと動いている。そして声が聞こえた。 「誰かいるの?」  その声に、ハッとした。そんなわけない。そんなわけあるはずがない。でも、もう一度その声が聞きたくて、気付けば私は「います」と返事をしていた。私の返事にその人は「あら、女の子ね」と嬉しそうに言った。やっぱり、似ている。「こっちにいらっしゃい、お話しましょう」そう言われて私は「はい」と返事をすると、ベンチの方へと向かった。この声の持ち主の顔が見たい。まさか、ともしかして、が入り混じりながら私は恐る恐るベンチへと近付いていく。     
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