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「それは気の毒でしたね、先輩」  まるで気の毒に思っていない声を聴いて、僕はため息を吐いた。  僕の前でキャンバスに向かう後輩は、右手に持った筆でモノクロの絵に色を与えている。息を吸うと絵の具のにおいがして、ここ美術室が、少し前までの僕の居場所であったことを思い出す。  部活を引退してから、もう二か月。僕たちの跡を継いだ後輩の一人と、ストーブを囲んで二人きり、物寂しい美術室にいる。 「君は、僕のことには大概興味がないよね」 「興味がないのはその出来事についてです。じゃあ聞きますけれど、先輩は、自分が悪いと思っているんですか」 「そこまでは正直、思えない」 「なら、気にしなくていいじゃないですか。もうすぐ受験始まるんですし、勉強の支障になるようなこと、抱えないでくださいよ。先輩にはぜひとも第一志望に合格して、私の高いハードルなっていただかないといけないので」  興味がないどころか、僕を踏み台にするつもりらしい。頼もしい性格を持つものだと呆れる。  でも僕はこの後輩のように、必要ないことはすっぱり切り離す、なんて割り切りが出来る性格ではない。後を引く苦い味を、いつまでも僕は感じてしまうのだ。 「後味が悪いんだよな」ぽつりと呟く。そのすぐ後に、後輩は筆をおいた。 「完成?」 「もうちょっとですね。まあでも、今日はこんなものでいいでしょう」  そう言うと、体の向きを変えて、僕と正対する。 「今は先に、そっちを片付けませんか」  僕は思わず、首を捻る。 「興味ないんじゃなかったの」 「先輩の集中が妨げられているなら、やむを得ません」  後輩はそう言うと、にしし、と笑って見せた。
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