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「話の流れを汲むと、その本を借りていた二人の内の一人が、件の彼女ですよね」  頷く。それはほぼ間違いないだろう。 「名前は覚えていますか? 私、知っているかもしれません」 「ああ、そういえば君と同学年か」  この後輩の後輩っぽく無さは、つい一年の年の差を忘れさせる。しっかりもので周りを引っ張っていくタイプなのと、僕が自分のことを大人とは見れないことが、そう錯覚させているのかもしれない。  僕は唸った。出来事ばかりが印象に残り、正直、名前はうろ覚えだ。 「女子の方は、山瀬か山浦か、そんな感じの名前だったと思う」 「山瀬なら、私のクラスにいますね。髪が長くて、大人しい子です」  僕は昨日の怒りをともした彼女の姿を思い返す。見た目の印象になるが、特徴と一致する。 「その子かもしれない」 「山瀬さんは確かによく本を読んでいますね。図書室をよく利用していてもおかしくありません。でも、なぜ先輩に怒ったのでしょう」 「それは、僕がその本を借りたから?」 「何で本を借りたら、怒ったのでしょう」 「二人だけのものにしたかった、とか?」 「なんと、そうだとしたらロマンチックですね」  後輩の目がらんと輝くのを見て、僕はいやいやと首を振る。 「なんでも色恋沙汰に結び付けるのはどうかと思うけれど」 「言ったのは先輩ですよ。それに、もう一人は男子なんでしょう? 百パーセント、恋が原因ですね。甘酸っぱい香りがぷんぷんします」 「君の嗅覚には偏りがあると思う」 「きっと、あの本は二人の愛を確かめ合うための、おまじないみたいなものだったんですよ。二人の名前で貸出履歴を埋めれば恋が成就するんです。うわ、そう考えると先輩は二人の邪魔をしたことになりますね。そりゃ、怒りますよ。私だって先輩との仲を邪魔されたら言語道断で殴り込みに行きますよ」  たくましい想像力に私情も混ざり、僕は呆れてため息をつく。この子の彼氏は大変だ、と他人事のようにその人を慰める。
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