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「それで、彼氏の方の名前はなんですか」
すでに彼氏と決めつける口ぶりに呆れつつ、おぼろげな記憶を拾い出す。
「えーっと、三文字だったんだけど、きっと特殊な読み方をする苗字だよ。そのまま読むと、とうかいばやし」
「えっ」
後輩は名前を聞くなり、急に態度を変えた。顔をしかめ、がっかりしたように肩をすくめる。
「東海林くんですか。ふーん」
しょうじと読むのか。僕はまたひとつ賢くなったが、それはひとまずどうでもいい。
「それなら、さっきの色恋予想は無しになりますね」
「どうして?」
「もう一年半になる彼女がいるからです。彼女がいるのに恋のおまじないなんて、するわけないでしょう」
不機嫌そうに答える。彼女の思うロマンチックな予想が外れて、面白くないのだろう。
「有名なんだ、その人」
「二学年の間ではそうですね。東海林くん、背も高くて顔も良くて、人当たりもいいので結構目立つ要素をもっているんです。彼女の方も可愛い子で、二人ともそれぞれ異性からの好意を集めていましたよ。でも、あまりにもお似合いで、他人の付け入る隙は全くありません。最近ちょっと喧嘩していたみたいですけど、周囲も認めるおしどり夫婦ですよ。」
高校生で夫婦と呼ばれるのもどうかと思うが、なるほど、それならおまじないの説は難しそうだ。
でもそれなら、なぜ山瀬さんと本を借り合っていたのか。
僕の目には、後輩の恋愛脳が移っていなければ、その行為は“二人の秘密のやりとり”に思えて仕方がない。
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