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◇
いつもの放課後。学校からの帰り道。
そこは町外れにある小さな書店。
私は一人、そのショーウインドウの前で足を止めていた。
綺麗に磨かれた硝子には、指紋一つ付いてはいない。
そんな硝子に手を触れないよう、私はそっと中を覗き込んだ。
丁寧に並べられた美しい装丁の絵本達が、無機質な空間を彩っている。
その中でも、取り分け私の心を惹きつけて止まない一冊の絵本があった。
『絵本の中の少女たち』
表紙には、そのタイトル通りに美しい愁い顔をした少女のイラストが、淡い水彩画で描かれている。
得も言われぬ不思議な魅力を持つ、私はこの絵本が気になって仕方がない。
あの日からは特にそう……この一冊の絵本が、以前にも増してギュッと私の心を締め付けてくるのだ。
「やあ、こんにちは。ええと、実穂ちゃん……だよね?」
ふいに後ろから声を掛けられ、私は慌ててその方へと顔を向けた。
そこにいたのは、二十代半ば程の彫像のように美しい顔立ちをした青年。
この店の主だ。
「あ、はい。こんにちは」
「今日も一人なんだね」
「ええ、残念ながら。今日も一人……です」
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