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◇
「どうぞ中へ入って。せっかく久し振りに来てくれたんだから、お茶くらい入れるよ」
「はい……ありがとうございます」
そんな店主に誘われるまま、私はふらふら店の中へと入って行った。
ダークウッドを基調とした店内は、少し冷たく薄暗い雰囲気を醸し出している。
木製の本棚には、他の書店では見た事のない様な書籍が、種類や大きさ別に収められていた。
殆どがレアな代物で、様々な土地に店主が自ら赴き買い付けて来るらしい。
あの絵本もその一つだ。しかもとりわけ特別な代物だと言う。
せめて中を見てみたい。そう二人で店主に何度か懇願してみたものの、未だその思いは叶わずにいた。
そんな、当たり前のようにいつも私と一緒にいた妹。
その果穂が姿をくらましてから、もう早一ヶ月が経とうとしている。
「はあ……」
ひたすらに溜め息だけが漏れ出る。
どこを見るでもなくただぼんやりとしながら、私は紅茶の入ったティーカップを口へと運んだ。
そんな時、コトリと店主が私の目の前に一冊の本を置いた。
「え……これ」
「どうぞ。君達が見たがっていた本だよ」
――『絵本の中の少女たち』
間違いない、私たちが恋い焦がれてきたあの絵本だ。
どういう事? 今まで頑なに見せてくれようとはしなかったのに。
驚きのあまり、私は大きく見開いた目を店主へと向けた。
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