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私は彼から逃げるようにして、震える視線を絵本へと移した。
絵本の中から、他の少女と同じように悲しげな瞳で見つめて来るもう一人の自分。
助けを求めているのか、それとも……
「ねえ果穂。きっとあなたも私と同じ事を考えている筈だよね……」
「何の相談? 分かっているとは思うけど、悪魔から逃げるなんてのは愚の骨頂だからね?」
恐怖を煽っているのか、わざとおどけた様子で脅すような事を言ってくる。
彼は本物の悪魔なのだと、改めて実感するに至った。
それでも一時の恐怖より、一生涯大きな後悔の念を抱き続ける事の方が私は怖い。
この一ヶ月を私がどんな思いで過ごして来たことか。
果穂の為なら何でもしよう、ずっとそう心に決めていた。
だから――
私は果穂の上に自分の手を置くと、すっと静かに目を閉じた。
「果穂。こんなにも長い間一人で寂しい思いをさせてごめんね。でももう大丈夫。私達は二人で一人、これからはずっと一緒よ。待ってて、今あなたの傍に私も行く……」
絵本に添えた私の手へと伝わって来たのは、感じ慣れた果穂の温もりだった。
ふわりとした得も言われぬ感覚が、無抵抗な私の体を優しく包み込んでいく。
ゆっくりと、果穂のいる世界へと引き込んでいく――
「ありがとう、悪魔さん。誰にも邪魔されない世界で私達を一緒にしてくれて」
当てが外れたように唖然としている悪魔に向かって、私はニコリと心からの微笑みを見せてやった。
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