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※※※※※ 「うわぁ……やっぱりまだ真っ暗だ」  施設病院からこっそり抜け出した二コラは思わずそう口走った。暗いのは当たり前、今はまだ夜明けには早い時間なのだから。  本当なら広大な薄紫の絨毯のように見えるツユヒメクサの花畑も彼の目には映らず、暗くてだだっ広い空間がただ(ひら)けているばかり。 (でも、空はきれい)  明けない群青色の空には無数の星。息を詰めて見上げると、無音の世界に星の瞬きがリン……と耳鳴りのように聞こえる。  鼻腔をくすぐるのは青い草花の匂い。この香りも星の囁きも、病院の窓から眺めるだけでは手に入らなかった物ばかりだ。 (……ん?)  ふと気がつくと、数メートル先の草地に少女が立っている。  黒いマントのような袖なしのコートを羽織っているので、暗闇に紛れて気がつかなかった。 「わ……可愛い子」  思わず口走ってしまい、二コラは慌てて口元を手で押さえた。    見た感じは自分より一つ二つ年上、佇んだままこちらをじっと見つめて身じろぎもしない。  何か取り繕う言葉を探しても、あまり人と接する機会のなかった彼にそれは見つけられなかった。  「チビ、落ちてるぞ。本」 「え?」  少女の後ろからヒョコッと赤い三角帽子の少年が現れて、二コラの足元を指さした。人が二人も居たなんて、いくら暗いとはいえまるで湧いて出たよう。 「あ、ありがとう。いつの間に落としてたんだろ……」
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