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歯医者
『全国のたいやき特集』
『尻尾まで餡たっぷり』
『“養殖”と“天然”の鯛焼きって?』
不安と恐怖に押しつぶされそうな俺を救ったのは、待合室に置かれた一冊の本だった。
「甘味まみれ」というこの上なくほわほわしたタイトルが、がちがちになった俺の心を柔らかく揉み解した。
カラフルなページには様々な甘味が所狭しと特集され、ページをめくるだけでも甘い香りがしてきそうだった。
大きなパフェ、芸術品のような美しいケーキ、その中でも俺の眼を釘付けにしたのは、鯛焼き特集だ。
鯛焼き発祥の地、ご当地によって形や顔の違う鯛焼きの魅力、養殖ものと天然ものの違い。
かりかりの鯛焼きや、ふわふわの鯛焼きが俺の頭の中で群を成して泳ぐ。
「鯛焼きの尻尾は“甘い実”を食べた後の口直しのハジカミみたいなもんで、アンコなんか入ってない方がいいのに、何で世間の奴はこぞってみっちりアンコ入れたがるんだ。そんなにアンコが好きなら鯛焼きじゃなくてアンコ買って食えよ。」
そんな暢気な考えすらも浮かぶ程に俺の心は救われかけていたのだが、そこに突然“あの音”が俺の鼓膜を震わせた。
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