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「自分で死ぬ事は、許されるのかどうか…難しいね。順調に生きてる人なら「あなたも生きて」って簡単に言えるけど、死にたい以外考えられないくらい辛い苦しみだって有るだろうしさ。ただね」
そこまで言うと、男は僕の手のひらに本を載せ、おもむろに胸ポケットから黒のペン(なんか高そうなやつ)を出したかと思うと、ペンで本を叩きながら叫んだ。
「ワン、ツー、スリー!」
次の瞬間、信じられなかった。
バサバサバサバサバサバサ……!!
風が無いのに、シャッフルされるトランプの様に、勝手に本のページがめくられていく。次々とめくられるページの中から出てきたのは…カラス!?
バサバサバサ…という音に合わせて次々とカラスが現れては、空へと羽ばたいていく。なんでカラス?鳩じゃなくて?いや、そんな事はどうだってよくて、一体どんな仕掛け!?
バサバサバサ…
呆気にとられて見入っているうちにページがどんどん減り、やがて表紙の厚紙だけが残った。
「はい、これで終わり」
残った背表紙を男がつまんで、自らの目の高さまでさっと持ち上げた。かと思ったら、それすらも瞬く間に10枚くらいのカラスの羽に変わり、ふわふわふわと地面に落ちた。
「ゴミ箱に捨てるよりも、ずっとイリュージョンでしょ?」
さっきまでムカついていた事もすっかり忘れて、僕は「スゲースゲー!!今のどうやったの!?」とはしゃいだ。
「あはは、マジシャンがタネを教えちゃあ、おしまいだよ」
そして、
「今、心に感じた様な『不思議』だとか『感動』の気持ちは、ずっと大事にしなさいよ。辛い事を忘れて生きていける鍵は、きっとそれなんだと僕は思う」と言った。
「じゃあね」
マジシャンは笑顔で、僕の頭をポンとたたいた。一瞬、爺ちゃんの顔が頭に浮かんだ。
「爺ちゃん!?」
そう叫んだ時には、そこにいたはずのマジシャンは消えていた。
"…カア、カア……"
鳴き声がする方を見上げれば、さっきのカラス達よりひと回り大きなカラスが一羽、真上で円を描きながら飛んでいた。そして、大きく艶やかな翼をひるがえしたかと思うと、夕焼け空のはるか彼方へと羽ばたき去っていった。
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