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死んだ爺ちゃんの持ち物を片付けという事になって、僕は母さんと一緒に、久しぶりに爺ちゃん家に来た。
学校の先生だった爺ちゃんは家でも几帳面で、久しぶりに入った書斎も、前と変わらず綺麗に整理されていた。
母さんと親戚の伯母さんは、次々と引き出しを開けては、中身を確認していた。「もしも、ほしい本が有ればもらっても良い」と母さんや伯母さんは言ってくれたけど、校長先生やっていた人の蔵書なんか、子どもが見たって面白いわけがない。いちおう一通りチェックしてから、後は持ってきたゲーム機でゲームしてようと思い、ぼんやりと本棚の背表紙を端から眺めていた時だった。
ある一冊の本に目が止まった。
「何、これ」
マニュアル本だった。自殺の。
本棚から引っ張り出して、中身を見た。
首吊りとか飛び降りとか、自殺の方法に「苦痛度」とか「手間」とかでランク付けがしてある。
「どうしたの?」母さんは、僕の視線の先にある本を見ると「ああ、有ったねえこんな本。確かベストセラーにもなってたね」と、口元を少し歪めて笑った。そして「遺品まだまだいっぱい有るねえ。これ今日中に終わるかな」と、すぐ元の作業に戻ってしまった。
(何だよ)
母さんの素っ気ない反応を見た時、何だか僕は強烈にムカついた。
爺ちゃんが仕事上必要で買った本かもしれないし、そもそも爺ちゃんの死因は自殺じゃない。だけど、その本が爺ちゃんの命を奪ったように、その時は何故か思えて堪らなくなったのだ?
僕はたまらずその本を持って部屋の外へ走り出し、勢いそのままに爺ちゃんの家から駆け出した。
母さんが「ちょ、ちょっとどこ行くの!?」と言うのも聞かずに。
気が付いたら、僕は大きな橋の上にいた。
随分遠くまで来ちゃったなー…と、橋の真ん中から眼下の川面を見下ろしつつ、(この本どうしようかな)と考えた。
(…いいや、捨てちゃえ)と、本をつかんだ手を大きく振ったその時、
「ポイ捨てはダメでしょ」と、いきなり後ろから手をつかまえられた。あわてて後ろを向くと、黒のスーツを着た知らない男の人が立っていた。
年は…うちの父さんより少し若いくらいか。
知らない人に咎められたバツの悪さで、僕は何も言えずにうつむいた。するとその人は、
「ふむ、だいぶ前に流行った本だね」と、僕の手から本を奪ってパラパラとページをめくった。
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