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わたしの目から、とめどなく涙があふれた。
理由は分からないけど、さっきまでのように、怒りと悔しさのせいじゃないということだけは分かった。
姉さんにもらったものを、こんなことに使うなんて。
涙とともに、激しい感情が流れていく。
代わりに現れたのは、わたしの素直な願いだった。
父さんに優しくしてほしい。
母さんに抱きしめられたい。
クラスの子と仲良くしたい。
次のページにそう書こうとして、姉さんが言っていたことを思い出す。
欲しいものがあるなら、待つだけじゃだめだって。
父や母やクラスメイトが改心するのを待っていたら、わたしはいつまでたってもこのまま変わらない。
まずは、わたしから歩み寄ってみよう。それでもだめなら、そのときはそのときだ。
姉さんがくれたこの本には、自分の力では叶えられないことを書こう。たとえば……。
「姉さんが、海外勤務から、無事に帰ってきますように……」
書き殴った箇所を破り捨てようとして、紙の端がどんどん黒ずんでいくことに気がついた。
「な、なに、これ……!?」
闇が浸食していくように、本はあっというまに真っ黒になり、わたしの指先まで黒くなっていく。
わたしは怖くて、もう本を持っていることができなかった。
風もないのに、ページが勝手にめくられる。
死ね、殺す、という文字が、血を吸ったみたいに赤く染まっていく。
「おまえの願いは叶えられた」
どこからともなく声が響いて、焼かれるような痛みが全身に走った。
自分がまだ生きているのだということを確かめたくて、わたしは瞼をどうにかこじ開ける。
赤くなった視界の隅で、光る尾を引いた星が、真夜中の空をななめに墜ちていった。
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