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「杏子、これ」
あの日、学校から帰ってきたら、従姉の千花ちゃんが遊びに来ていた。
いろいろ飛び回っている千花ちゃんと会えるのは、何年ぶりだろう。わたしはランドセルを放りだして、千花ちゃんをわたしの部屋に招き入れた。
お菓子やお茶を出すために一度リビングへ降りて、それからまた部屋に戻ると、千花ちゃんは一冊の本を鞄から取り出した。
真夜中色の空に銀の星が散りばめられて、とてもきれい。
千花ちゃんはひょいとお盆を取り上げてテーブルに載せてから、脇に置いた本をわたしに差し出した。
「おまえにあげるよ」
「ほんと!? 千花ちゃん、ありがとう!」
本を受け取って、表紙を撫でてみる。空の部分はさらさらしているけれど、星はつるつるしている。
「とってもきれい」
中を見ようとしたけれど、鍵が付いていて、開くことができない。
「鍵かかってるの?」
「その本に書いたことは、どんなことでも一つだけ、叶うんだってさ。そんで、願いが叶ったときに、星が流れるらしいよ」
驚いて千花ちゃんのほうを見ると、千花ちゃんは薄茶色の髪を指先にくるくる巻き付けていた。
「あなたの必要なときにだけ開きます、なんて言ってたよ、あのペテン師。夜に駅のほう行くといるんだよね、押し売りまがいが」
千花ちゃんの言うことは難しくて、ときどきよく分からない。
「十中八九、ただの日記帳だろうけどね。でも見た目はかわいいし、鍵がなくてもペンチかハンマーで……」
わたしは本をぎゅっと抱いて、首を横に振った。
「千花ちゃんは……、一つ願いが叶うなら、なにをお願いする?」
「一個? 迷うなぁ、欲しいものならいっぱいあるよ」
金でしょ、名声でしょ、自由でしょ、と千花ちゃんは指折り数えて、それから笑った。
「わたしは……」
お父さんとお母さんに仲良くしてほしい。
「ま、欲しいものがあるなら、流れ星を待つだけじゃだめかもね。星の落ちるところまで行くくらいじゃないと」
そう言って、千花ちゃんがわたしの頭をわしわしと撫でたとき、玄関の鍵が開く音がして、お母さんの帰ってきたことを告げた。
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