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「先輩……。お久しぶりですね」
恐る恐る近づいてきた彼は、ホッとしたように目を細めて笑った。彼は、そう。私が高校生の時に生徒会でお世話になった、1つ歳上の先輩。自称ヤンキーの割には、すごく真面目だったのが印象に残っている。
「県外に進学したんだったよな。今日はどうして?」
「妹が死んだんです」
彼は眉をひそめ、視線をさ迷わせた。本当に分かりやすい人。私は彼のことだけは信用していた。
「気にしないでくださいね。先輩には、妹のことすら言ったことがなかったんですから」
「あ、あぁ。悪いな」
私は首を振り、笑ってみせた。
この寒さの中軽装備な彼は、鼻の頭を赤くして、ズボンのポケットに両手を突っ込んでいた。
「あーさみぃ」
「誰か待っているんですか?」
「うん。大学の友達なんだけどさ……。なんか、全身真っ黒コーデのイケメン見なかったか?」
「さ、さぁ?」
「だよな」
彼は明らかに肩を落としたようだった。心配をしているわけでもなかったので、相手は遅刻の常習犯なのかもしれない。真面目な彼が、1人待ちぼうけをくらう姿が容易に目に浮かぶ。
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