第4章 夜の学園

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 「豊永マサハル!何故あなたが居たのよ。あなたさえ居なければ・・!」 ゆかりはアイアンを大きく振り上げた。下にはマサハルが倒れている。 「やめろ!」とサカキ。 「お前も味わえばいい。夢を砕かれたひろみの苦しみを!」 「その足・・二度と走れない様にしてやるわ」  「ーーバカ!私はそんなの望んでないわよ!」 一閃(いっせん)の風の様にその声が、ゆかりの狂気を切り裂いた。 「ひ・・ろみ?」と動きが止まる。 松葉杖杖代わりに傘にすがった親友のひろみを見つめる。 痛々しい三角巾。 それを見た途端、殺意が生まれた。  足を砕くだけじゃ生ぬるい。 コイツは、死ねばいいのよ!振り上げた瞬間、ぎょっとした。 豊永は何て男だろう。 その一瞬の(すき)にしがみつかれ、体当たりで押さえようとする。  背中を強打し、動け無かったくせに!  離せ! アイアンを振り回し、当たった衝撃が豊永の左腕をかすめたのに、 彼は、ぐらつくきながらグリップを(つか)む私の手ごと押さえ、 ゴルフクラブを横に倒して左右の腕が強くアイアンごと、私を押さえつけた。    信じられないことに手首を縛った、(なわ)がほどけ掛けてる。 倒れた振りで、口でほどいてたんだろう。  馬乗りの豊永にアイアンが首元に伸びる。突っ張る腕の力が抑えられる。 いや、背中は強打したのだ。 豊永も肩が強ばるように震え、半端な男の力は全身を込めた女の力で 簡単に(くつがえ)された。 力ごと豊永を振り払い、逃げる。 「待て!」 背を返す私を追う手を、力いっぱい振り払うと勢いで、豊永の動きが遅れた。 背中の衝撃は、ダテに食らってはいなかったのだろう。 「ゆかり!」 背にひろみの声。 豊永を助けようと両手をくくられたままのミドリが近づき、 それを見た私の中の炎が次の瞬間、豊永を狙った。  幸運なことに私の手には、まだアイアンがある。
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