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「本当のダチなら叱りつけても、恨まれても見捨てずに吠えろよ!」
「あの時、俺を叱ってくれたワタルみたいによ!」
ゆかりの頬から大粒の涙がこぼれる。
そのまま突っ伏して、おいおい泣き出した。
「ゆかり」と松葉杖替りの傘にすがったひろみの声に、視線だけ上げる。
きっとひろみはおかしな私に気づいて、ここに来たのだ。私を追いかけて。
傷む足を引きずって。ただ、私の為に。
「ごめん・・ゴメンなさ・・・ごめんなさ・・い」
ゆかりは泣きながら、立ってひろみに近寄ろうとした。
窓を背に立ち上がり、1歩踏み出そうとする、そのゆかりに。
ズルッと何かが頭から、垂れ下がった。スライム状の黒さ。
それが、あっという間にゆかりを巻き込み、割れたガラス窓から
外へ飛び出した。
「ゆかり!」と飛びつこうとするサカキを突き飛ばすように黒さから
引きはがし、同時に俺は黒さを追って、窓から飛び出た。
「ちょっ・・豊永・・?」とサカキ。
ここは2階だ。
目の前に大きな茂みが枝を張っていて、俺はその樹の中に突っ込んだ。
枝に残されたのは、ゆかりの白いニット帽。
スライムはゆかりを抱え、そのまま枝を離れて逃走している。
夜の闇が俺を包む。
茂みに俺を見失ったサカキが、豊永ー!と怒鳴って俺を呼ぶ。
だから俺は枝を突っ切り、呪文を低く叫んだ。
「ノアール。キャッチ、ラ、シドウ!」
闇と闇をつなぎ、また別の闇へと、いざなう俺の魔法。
夜の闇の中、闇より深い暗さを喚んで、その暗さごと俺は
闇の中を移動した。
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