第4章 夜の学園

15/17
24人が本棚に入れています
本棚に追加
/104ページ
 今度はみどりが豊永を庇った。 バカな娘! 背中を殴る勢いが、でもかすめただけだと、私の手首に返る衝撃が 私に教える。 またしてもとっさに豊永がみどりを引き寄せ、アイアンの軌道(きどう)から庇ったからだ。 ワンテンポおかず、信じられないバネで豊永がアイアンを掴み、 強引に私の手からもぎ取った。  手首の縄は完全に無くなっている。縄がほどけたのだ。 豊永はクラブを遠くに投げ捨てると同時に私に追いつき、 追い越しざま私の足元を足で払った。 ズルッと思い切り、しりもちで転がる。 激しい瞬発は逃げ場を与えない。全身をバネの様に飛びつき、 私の肩を押さえる。 「バカだな。俺に仕返ししたって、その子の夢を支えることに なんねーだろうが!」 「何、言ってるのよ!」 「ダチならちゃんと支えてやれよ!大事なら(しか)ってでも 何で彼女を止めなかった?」 「どーしょうもねぇことは確かにあるよ。誰にでも八つ当たりしたくて 周りのせいにして、何もしねーでよ、俺もそうだったからさ!」 「何の事よ?」 「俺さ。中坊の時、とんでもない悪ガキでさ。悪い奴らとつるんで 先公に色眼鏡で見られて、そんですねて札付きの不良って。 皆に(あき)れられてた」  マサハルは俺ってバカだろ?といった具合に苦笑いで続ける。 「いや(あきら)められてたかもな。コイツはどーしようもねぇバカで 愚か者の不良だって。でもさ、そんな俺を信じてくれたダチもいたんだ」 「ちゃんと見守って叱りつけて、変わらず笑ってくれるダチがさ。 そいつのおかげで俺は立ち直れた。陸上って夢も見つけられた」 「なぁ、お前も一緒だろ。変わらずに相手がどんなになっても 見守ってたよな」 「見捨てずにそいつの苦しみを自分の事みたいに受け止めてさ」 ゆかりは目を見張っている。 「そんなバカはちゃんといるんだ。ひろみって奴にもお前が居て お前はそのひろみの(ため)に俺やサカキを恨んでこんなことまで しようとした。・・友情だよ、ただとんでもない曲がった友情じゃねーか。」 「そんなことまで出来るのに、何故ひろみがぶっ壊れる前に止めねーんだよ」 「どーして止めてやんなかったんだよ!」 ゆかりは動けない。 その唇が震える。
/104ページ

最初のコメントを投稿しよう!