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唄は詩のように、美しく透明だった。幻想的な物語のようでもあり、見る者聞く者を、惹きつける。
突然、唄がピタリと止んだ。少女は邪魔をしないように遠くから見ていたつもりだったが、どうやら通用しないらしい。
それは純粋な問いかけだった。
「……誰だ?」
「わらわか? この宮の者じゃ。名はあずさという。お主は?」
「……朱音」
「朱音か。いい名じゃ」
少女が笑みを深くする。
今はもう記憶の底にある、遠い遠い夢。
名前を褒めてくれた、優しい兄のような存在がいたこと。
もう忘れてしまったと思っていた。しかしそうではないことを、確信する。少女も自然と口にしていた――きっとこれは、縁なのだ。
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