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ガソリンスタンドからの帰り道、勇は不意に寒気を感じて体を震わせた。
「どうしたの?」
いつものように隣を歩いているひかりが尋ねて来る。
「いや、何か朝から寒気がするんだ」
「風邪じゃない?」
ひかりが立ち止まって勇の額に手を当て、自分の額の熱と比べる。
「……熱は無いみたいだけど」
すっと手を引いて、ひかりが言った。
「ああ……」
額にはまだひかりの手の感触が残っている。
それが不快ではなく、何だかとても暖かく感じたから。
歩き出しながら、勇はそっと自分の額を押さえた。
ひかりが再び立ち止まったのは、しばらく経ってからだった。
「どうした?」
「感じない?凄い殺気……」
ひかりは、いつかも見せた厳しい瞳で辺りを見回す。
勇の背に、更に強い寒気が走った。
やがて前方から落ち着いた足音が聞こえた。
街灯の明かりに、一人の背の高い男の姿が浮かび上がる。
黒い服を着ており、左の頬に傷跡が一本走っているのが見えた。
その時、勇もはっきりと感じた。
男の纏う、静かで確かな殺気を。
それはあまりに静かである故に、逆に恐ろしさを覚える。
隣のひかりも同じ事を思っているのだろう。
それは、いつの間にか勇の腕を強く掴んでいる事から容易に想像がついた。
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