いまきみの望む証を

6/14

3人が本棚に入れています
本棚に追加
/161ページ
考えても仕方無いので、勇はすっぱりと話題を変える。 「それはともかく、よくここにそうタイミング良く入れたな。まさか前の養護教員を殺したりしてないだろうな?」 宴ならやりかねないので念の為に尋ねてみる。 「まさか。たまたまですよ、たまたま。これも何かのご縁でしょう。前の方は産休らしいですしね」 宴は息をついてから呟いた。 「まあ私としても少し調べたい事があったので、丁度良い機会だったのですが」 「調べたい事?」 ひかりが聞き返すと、しばらく間があってから返答があった。 「……人間の記憶についてです」 記憶。 その単語に勇とひかりがそれぞれの反応を示す。 それを見て、宴は僅かに目を細めた。 「大学の時に少し調べたきりでしたが、最近になってまた興味が湧いて来ましてね」 少ししてから、ひかりが思い切ったように尋ねる。 「記憶を失う状況って、どんなものがあるの?」 「事故等で脳にショックを受けて失うケースがあるよな」 宴の代わりに答えた勇を、ひかりが驚いたように見る。 宴はテーブルの上に置かれた勇の荷物をちらりと見た。 ノートと教科書の間に、一冊の本が挟まっている。 中程に栞を挟んだその本を、以前宴も読んだ事があった。 それは、記憶喪失について書かれた本だった。
/161ページ

最初のコメントを投稿しよう!

3人が本棚に入れています
本棚に追加