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考えても仕方無いので、勇はすっぱりと話題を変える。
「それはともかく、よくここにそうタイミング良く入れたな。まさか前の養護教員を殺したりしてないだろうな?」
宴ならやりかねないので念の為に尋ねてみる。
「まさか。たまたまですよ、たまたま。これも何かのご縁でしょう。前の方は産休らしいですしね」
宴は息をついてから呟いた。
「まあ私としても少し調べたい事があったので、丁度良い機会だったのですが」
「調べたい事?」
ひかりが聞き返すと、しばらく間があってから返答があった。
「……人間の記憶についてです」
記憶。
その単語に勇とひかりがそれぞれの反応を示す。
それを見て、宴は僅かに目を細めた。
「大学の時に少し調べたきりでしたが、最近になってまた興味が湧いて来ましてね」
少ししてから、ひかりが思い切ったように尋ねる。
「記憶を失う状況って、どんなものがあるの?」
「事故等で脳にショックを受けて失うケースがあるよな」
宴の代わりに答えた勇を、ひかりが驚いたように見る。
宴はテーブルの上に置かれた勇の荷物をちらりと見た。
ノートと教科書の間に、一冊の本が挟まっている。
中程に栞を挟んだその本を、以前宴も読んだ事があった。
それは、記憶喪失について書かれた本だった。
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