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再び歩き出そうとした時、一人の少年の姿が目に映った。
夕焼けの日射しの中、校門の柱に寄りかかって本を読んでいる。
誰なのかは、すぐに分かった。
「……勇?何してるの?」
躊躇いがちに声を掛けると、勇は本から目を上げた。
「ああ、遅かったな」
それだけ言って柱から背を離し、帰り道へ足を向ける。
少し行ってから、立ち尽くしたままのひかりの方を振り向く。
「どうした、帰らないのか?」
「あっ、待って」
ひかりは慌てて勇の隣に並んで歩き出した。
足を動かしながら、勇の横顔を見上げて尋ねる。
「ねえ、こんな時間まで何をしてたの?」
「見て分からなかったのか?読書だよ」
それは見ればすぐ分かった事だが、それなら家へ帰ってから読めば良いのだ。
何もわざわざあんな所で読む必要は無かった筈だ。
それにも関わらずあそこにいたのは、もしかしたら。
こう思ってしまうのは思い上がりだろうか。
自惚れだろうか。
もしかしたら、勇は自分を待っていてくれたのではないかと。
そんな事は無いと笑い飛ばされてしまうのが怖いから、声に出しては訊けないけれど。
ほんの少しだけ、この嬉しさを自分の胸に抱き締めていて良いだろうか。
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