第一章

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 1. 笹深(ささみ) 紀絵(のりえ)は、ひたすら壁に掛けられた時計を睨みつけ、貧乏揺すりを続けていた。 蓮見ヶ(はすみがおか)高校、二年二組。 現在三時限目の数学が行われているこの空間で、自分より授業が早く終わることを祈る者は絶対にいないだろうという自負を抱きながら、額に滲む脂汗に口元を歪めた。 授業が始まって二十分が経過した頃、唐突に腹痛が襲いかかってきた。 今朝、時間がないからとらっぱ飲みしてきた牛乳を思い出し、後悔の念が湧きだしてくる。 元々、寝起きに冷たいものを飲むのが苦手ではあったし、過去に何度となくそれで腹を下した経験をしているのだが、今朝だけはどうしようもなかった。 セットしたと思い込んでいた目覚ましは鳴らず、目を開けたとき既に時計の針は遅刻十分前を差し示していた。 ぶっ飛ぶように身体を起こし、自分でも驚くほどのスピードで着替えを済ませると、台所へ駆け込み冷蔵庫を開け、真っ先に目についた牛乳へ口を付けた。
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