2.ドメッスティックバイレンス疑惑事件

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広報部では社外対応が今のメインの仕事だ。研究者でありながらまるで事務系の仕事をしている。ここの前は企画部門にいたが、請われて異動してきた。もともと研究職が希望で、入社してすぐに研究所に配属された。 入社5年目に故郷の親の勧めで見合いして婚約した。式の日程まで決めていたが、その後、相手との意思疎通がうまくゆかず、式の直前で婚約を破棄することになった。上司や同期に出席を頼んであったので謝罪して回った。 そのことが研究所内に知れ渡り、また破棄の後ろめたさから、研究に逃げ込んだ。幸いに、研究開発の成果が上がり、上司の計らいで博士号も取得することができた。これが契機となって本社の企画部門への異動の話が出て、いやな思い出のある研究所を離れたかったので快諾した。 今日は記者クラブとの交流会、2次会まで付き合い、午前1時を過ぎての帰宅になった。そして2人の生活が始まってから最初の事件が起こった。 ここのところの生活に浮かれていたせいか、すっかり酔いが回ってしまい、車を降りたところから、記憶がはっきりしない。ドアを開けて、いつも通り部屋に入って、敷いてある布団に寝た。 突然「ギャー」の叫び声。なんだ、うるさい。「ギャー」の叫び声が続く。外から玄関ドアをたたく音。 誰かがドアを開けて入ってきた。回りが明るくなって、気が付いたらお巡りさんが目の前にいた。 事の顛末はこうだ。午前1時半ごろに帰宅した。泥酔していたので、以前自分の部屋にしていた癖が出て、久恵ちゃんの部屋へ間違えて侵入した。 バタンキュウのつもりで、寝ている布団の中に入った。久恵ちゃんが驚いて「ギャー」と奇声を連発したため、隣の住人がマンションの警備会社へ連絡した。 ガードマンが急遽到着し、合鍵を使って部屋に入って、その侵入者を取り押さえた。その後、パトカーが来るやらで、一騒動となった。 理由を説明したが、なかなか信用してもらえない。久恵ちゃんは、泣いてばかりなので、ドメスティックバイオレンスか何かがあったと見られてもしかたない。 酔いがすっかり醒めたころにようやく解放された。 久恵ちゃんには「申し訳ない。酔っていたとはいえ、以前の自分の部屋と間違えたことは、全く迂闊だった。誤解しないでほしい。信じてくれ」と平謝りだった。
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