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7月下旬に部長に呼ばれた。
「川田君、今日急だけど、講演会と懇親会に俺の代わりに出くれ」
「いいですよ」
「場所は?」
「霞が関」
「講演を聞いて、簡単な報告書を書いてくれ、メモ書き程度でいいから」
「了解です」
午後会場へ向かうことにした。講演要旨をくれるから、メモ作成は簡単だ。居眠りしないで聞いて、懇親会で飲んで食べて帰るだけ。夕食はパスすることと、およその帰宅時間を久恵ちゃんにメールした。
すぐに返事のメール[絶対に飲み過ぎないで!]こちらも[了解、ありがとう]と返信した。
前回の泥酔事件で懲りているから、懇親会でのお酒はほどほどで終了した。一足早く退席する。帰り際に突然の強烈なゲリラ雨だ。傘はいつも携帯しているが、全く役に立たない。
走って地下鉄の入口へ向かう。階段を2、3歩降りたところで、スリップ、右肩を下に転倒した。右肩に激痛が走る。小さい時から雪道で転ぶのに慣れているので、とっさに避けて幸い頭は打たなかった。
右の手先の位置感覚がおかしい。自分の手じゃないみたいにズレている。激痛、激痛! 後から続く人が「大丈夫ですか」と声をかけてくれる。「大丈夫です」と答えるが、大丈夫じゃない、これは。
とにかく家へ帰ろう。タクシーを拾おうとするが、この土砂降りの雨、空車なんか走っていない。でも地下鉄で帰る気力がない。
久恵ちゃんに電話を入れる。階段で転んだから、タクシーで帰るけど、車が拾えないので帰宅が遅れると伝える。
雨の中、道路を渡って反対側のビルの軒下で空車を待つ。運よく1台、空車が通りかかったので、乗車できた。一路自宅へ向かうが、右肩に激痛が続く。
マンション前の大通りで久恵ちゃんが傘を持って心配そうに待っていてくれた。カバンを持って傘をさしてくれる。助かった。
部屋に布団が敷いてあり、すぐに休めるようになっていた。とりあえず部屋着に着替えて横になるが、右肩の激痛は続いている。
水を持ってきてくれた久恵ちゃんが病院に行かなきゃダメという。この時間だし、病院は明日でいいというが、病院に行けと聞かない。
私が連れて行くからと、119番に電話している。救急車を呼ぶのかと思いきや、近くの病院を紹介してもらっていた。なるほど。
見てもらえる病院が見つかったからこれから病院へ行こうと、急き立てる。
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