141人が本棚に入れています
本棚に追加
そこまでしてくれたら行くしかない。また、大通りへ出る。もう雨は上がっていた。時計を見ると8時だ。確かにこの時間ならまだ見てもらえる。大通りは空車がよく通る。すぐにタクシーに乗って紹介された近くの病院へ向かう。
裏口にある守衛さんがいる受付を通って院内へ入り、処置室へ向かう。整形外科医が待っていてくれた。それがうら若き美人の女医さんでラッキー。
すぐにレントゲン撮影した。右肩脱臼で骨折はないとのこと、脱臼だから元に戻すと女医さんが引っ張る。けど痛い! 女医さんは力が弱いから大丈夫かなと思ったが、何度か試みるうちにポコンとはまったのが分かった。
やっぱり脱臼だった。これで一安心した。三角巾で腕を吊ってもらって処置はここまでで、明朝再度病院へ来るように言われて帰宅した。
帰りのタクシーの中で「女医さん美人だったなあ」というと「こんな時に不謹慎」とひどく叱られた。それから長々とお説教された。まるで、小学生が母親にしかられているようだった。しょんぼり反省した。また、借りができた。
「ありがとう、久恵ちゃん。一人で生活していたらすぐにはいかなかった。今日行かなかったら、もっとひどいことになっていた。本当にありがとう、助かった」
「私ね、パパには長生きしてもらいたいの。崇夫パパのように早死にしてもらいたくないの。長生きして私を守ってもらいたいの。だって、ママもいないし、パパのほかはもう誰もいないのよ」
「おじさんは、死ぬまで久恵ちゃんを守り抜く覚悟だよ。兄貴と約束したから」
「私もパパを守り抜く、絶対に死なせない」
「ありがとう」
「ママは自分のためには生きられなくとも、娘のためなら生きられるものよ。自分のためよりも人のためなら生きられるものなのよといつもいってくれていたわ」
突然、後を向いて、久恵ちゃんが泣き出した。死んだ両親を思い出したみたい。
「私、とっても悪い子なの。両親が事故でなくなったのは私のせいなの。私ね、ママが死んだら、パパの世話をするから、安心してとママにいつも言っていたの。ママはお願いねといっていたけど。ママが死んだ時のことばかり考えていたこともあるの。それはね、私がいつからかパパのことを好きになったからなの。罰が当ったのね、二人とも死なせて」
最初のコメントを投稿しよう!