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兄夫婦は実家の母の面倒も見てくれていたが、これもできなくなり、母には、食事付・介護なしの高齢者専用住宅に入居してもらった。
母は気丈で、父の会社の始末は私がつけると兄の名義になっていた実家の売却を承知した。母には幾ばくかの預金と父の遺族年金があり、今後の生活については特段の問題はなかった。
久恵ちゃんとは7年前、兄の結婚式の時に初めて会った。その時は中学1年生だった。兄は再婚で、義姉はシングルマザーで少し陰のある美しい女性で優しい人だった。兄の会社でパートとして働いていたのが縁で結婚することになった。
兄は実家で母と同居していたが、結婚を機に、近くに中古の住宅を購入して、家族3人の生活を始めた。
久恵ちゃんは目がクリクリしたはっきりとものを言う活発な女の子だった。その後は年に1回くらいの帰省時に会う機会があったが、会ったのはせいぜい3、4回だった。会えば、お年玉やお小遣いを渡していた。
久恵ちゃんも20歳になり、随分娘らしくなっていた。事故直後は、目を真っ赤にして憔悴しきっていたが、お葬式を済ませてからは、現実を受け入れて、落ち着きを取り戻していた。芯のしっかりしている子だ。
兄の会社の負債状況と家や財産の状況を説明してから、今後の身の振り方について相談した。
「3月に短大(短期大学部)卒業だよね。就職は決まっているの?」
「公務員試験受けたけど不合格だった。銀行の求人に応募したけど不採用で、就職活動中。3月までに良い就職先が決まらなければ、パパの会社のお手伝いをすることになっていたけど、こういうことになって」
「住む家がなくなるけど、どうする? 就職先も見つかっていないし、東京のおじさんのところへ来ないか? 一部屋空いているから。おじさんは兄貴から久恵ちゃんのことを頼まれているから力になりたいと思っている」
「短大の専攻は?」
「コミュニティー文化学科です。私、お勉強にはあまり向いてなくて、パパには高校までで良いと言ったけど、これからは女の子でも大学まで出ておいた方よいといわれて、それでは迷惑がかかると断ったけど、お嫁に行く時も今では短大くらいは出ていないと相手の両親が気に掛けると説得されて、短期大学部に入ったの」
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