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「管理人さん、家族を紹介します。」
「私、妻の久恵です。よろしくお願いします」
「ええ! いやその・・・」
言いかけてやめた。それから、慌てて明日荷物が搬入されることを話して帰ってきた。
「なぜ、妻といった。姪じゃないか。管理人さんは驚いていたぞ」
「名前が川田康輔、川田久恵だから妻で」
「姪でもよかったんだけど、その方が不自然でしょ。姪と独身男性が一緒に住むのは。娘でもおかしいいでしょ。突然、独り身の男に顔の似てない娘ができて。やっぱり妻が自然」
「年の差からかなり無理があると思うけど」
「それから、呼ぶときだけど、おじちゃんは寅さんみたいでやめたいの。パパと呼んでいい? 呼びやすいから。だって父親代わりなんでしょ?」
「まあ、そうだけど、パパか」
パパというと同じ地方出身の同期を思い出す。研究所の行事に東京出身の奥さんが来ていて、パパと呼ぶので、思わず顔を見て吹きだしそうになった。とてもパパという顔付きではなかったので。それからはどこかでパパと呼んでいる声を聴くと思わず呼ばれたパパの顔を見てしまう。
「2人だけのときは、パパ」
「他人の前では、絶対にだめだ。顔も似てないし」
「気にするほどのことではないと思うけど」
「まあ、いいとしようか」そう悪い気もしないし。
「疲れてない? ひと休みしたら、まず駅の回りを案内しよう。東京の私鉄沿線の典型的な駅前商店街があって、食べ物屋さんもあるし、スーパーも2軒ある。買い物をして夕食を食べよう」
「いいところだなあ。私、東京に住んでみたかったのでうれしい」
「東京に住むって大変だよ」
「おじさんも金沢から出て来て慣れるのに髄分かかった。今は地方にもほとんどのものあるけど、東京にしかないものが結構ある。休みの日には東京を案内してあげよう」
「慣れるのに時間がかかるかもしれないけど、おじちゃん、いやパパがいるから安心している」
「明日は学校へ行ってみよう、専攻はフランス料理にしておいたけど、よかったかな? フランス料理は料理の王道だから、物事やるなら王道をいくべし」
「仰せのとおりに! 習ったら家で試してみるね」
「ああ楽しみだ」
帰宅後、二人ともシャワーを浴びて、久恵ちゃんは自分の部屋でシーツを換えた僕の布団で、僕はリビングのソファーで就寝した。
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