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どう言う訳か、会社では扶養家族の「姪」ができて、マンションの管理人さんへは「妻」ができて、家の中では親代わりの「パパ」になった。明日からの同居生活はどうなるか? おやすみ。
次の日の朝、久恵ちゃんの荷物が小さな2トントラックで届いた。ダンボールが10個程と小さなテーブル、プラスチックの衣装箱、本棚、テレビと布団だけだ。少ないと思っていたけど、部屋に運び込んでもやはり少ない。
久恵ちゃんが少し疲れている様子なので「手伝おうか」と聞くと「お願いします」の返事があった。ああいやだ、年頃の娘の持ち物に興味があった。自分ののぞき見趣味に嫌悪を感じつつ、何気なく開封を手伝う。
服は若いのにシンプルで地味なものばかりだった。
「服はママと共用にしていたの。体形がほとんど同じ、靴のサイズも同じで効率的。お金に余裕がないのが身についていたのね。でも便利だった。だから、これがママの遺品。着ているとママに守られているような気がするの」
「今度の休日、洋服を買いに行こう。おじさんも買いたいから」
「はい」
久恵ちゃんが大事そうに、上半分が鮮やかな赤色の小さいグラスを本棚に飾っていた。
「とってもきれいだね」
「パパが『小さな貴婦人』という名前をつけていたもので、私のイメージにそっくりだからと言って、くれたものなの。アメリカ製の古いものだとかで、光が当たると、とてもきれいなの。それから、このグラス、使ってください。パパの遺品です。パパがウイスキーを入れて飲んでいたものだけど、光が当たるときれいです」
「ありがとう大事にするよ」
小さな赤いグラスをみて、兄が久恵ちゃんを愛しく大切に思っていたのか、分かったような気がした。
次の土日は東京の案内方々、二人で買い物に出かけた。久恵ちゃんの身の回りの小物や洋服、それに化粧品など、僕は久恵ちゃんが選んでくれた若者向けのシャツとズボンを購入した。
久恵ちゃんは薄化粧で、よく見ると化粧しているのが分かる程度だ。若い子は肌がきれいだから薄化粧がいい。母親がそうだったから自然と薄化粧になったとか、母親の娘への影響は大きい。
それから、会社の同じ部の女性に聞いておいた表参道のヘアサロンへ案内した。後に束ねた髪をショートカットにしてもらった。
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