白いセーター

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  2  新潟港で水揚げされて、朝一番で店に入荷した南蛮エビは、もちろん鮮度抜群である。  透き通るような赤いエビは、片栗粉と塩をまぶして180度の高温で揚げると、パリッとした食感の唐揚げになる。  最も旨い食い方は、頭から丸ごとバリバリ食べること。揚げることで固く鋭くなった甲殻は凶器だが、それさえ気をつけて咀嚼すれば、強い甘味とコクが口いっぱいに広がる。  トレイに盛りつけた南蛮エビの唐揚げのパックを陳列していると、背後から声をかけられた。 「らっしゃいませ!」  おれは陳列の手を休めて振り向いた。 「こんにちは」  花梨だった。買い物カートにどっさりと食材が積まれていた。 「先日はセーターをありがとうございました。あとでクリーニングして返すから、もうちょっと待ってください」 「いつでもどうぞ」 「きょうはユー君の誕生日なんですよ。だから美味しいものでも作ろうと思ってさ」  花梨は嬉しそうに顔をほころばせている。へえ、そりゃいいと、おれも言いながら買い物カートの中を覗いた。春菊、白菜、豆腐、牛肉、椎茸、玉子・・・ 「おお。すきやきだね?」 「ビンゴ! あ、その南蛮エビの唐揚げ、めっちゃ旨そうじゃん。ひとつ、買っていくね」  花梨はひょいと手を伸ばしてパックをカゴに入れると、客で賑わうコンコースの奥へ溶け込んでいった。 「ありがとうございました!」  おれは軽やかな後ろ姿をしばし見とれていた。
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