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九
「そろそろ起きないと本当に死んじゃうよ」
少女はそう言うと俺の顔にビンタした。冷たくなった皮膚が鋭く痛む。
俺は意識を取り戻し、勢いよく起き上がった。
「……この遊びは危ない」
立ち上がり、体についた雪を払いながら俺はそう言った。
「でも楽しいでしょ?」
「楽しい遊びほど危険なもんだ」
意識がはっきりしてくるにつれ、体がとても冷えていることに気づく。寒い。
「知ってる? 凍死する時って凄い幸せな気持ちになるんだって」
「縁起でもないことを言うなよ。俺はまだ死ぬつもりはないぜ」
確かにさっきは良い気分だったが、俺はまだ生きていたい。
俺が起きたのを見て、少女はさっさと歩き出す。山を降りるようだ。
「体、冷えたでしょ。またコーヒー飲みに行こう」
「あぁ、そうだな」
体が冷えたのはお前のせいだろ、と言いたかった。
「あっちの世界に置いてこれた? 悲しい気持ち」
少女はこちらを見ずに聞いてきた。
胸に手を当ててみる。言われてみれば、不思議と沈んだ気持ちはなくなっていた。
「そうみたいだな」
「よかったね」
少女は振り向き優しく笑った。
その美しく優しい笑顔を見て、俺はなんだか怖くなってしまった。
「俺、本当に生きてるよな?」
「ハム次郎に会いに行くにはまだ早いよ」
少女の言葉に安心した。あぁ、よかった。俺はまだ生きてる。
「実は死んでるってオチじゃなくて良かったぜ」
俺はそう言いながら山を降りる。ふもとでは美味しいコーヒーが俺を待っている。
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