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三
「どうしたんです、お客さん」
挨拶もなしに、少女を担いだ俺に対して店主が声をあげた。
「そこの山でこのコが倒れていたんだ。すぐに救急車を呼んでくれないか!」
俺はストーブの前に少女を降ろすと店主に指示した。
店主は慌てて受話器を取り、電話をかけようとする。
「救急車は困る」
ぼそっと呟いたのは誰あろう少女だった。
「良かった、意識が戻ったのか」
「近田さん、別に大丈夫だから救急車は呼ばなくていいよ」
少女は俺の問いかけを無視して店主に話しかけた。
店主は少女の顔を見ると、ほっと一息ついて受話器を置いた。少女と店主はどうも知り合いらしい。
「ただ昼寝してただけだから」
眠そうな声でそう言うと、少女はコートや手袋を脱いで、ストーブの近くに並べだした。
「昼寝? こんな真冬に雪山で!?」
「そう。雪が静かに降る日は、いつもあそこで昼寝してる」
俺の質問に眠そうな声で少女が答えた。
「そしたらおじさんが私を担ぎ上げてここまで運んでくれたわけ。眠かったから甘えた」
「じゃあ何か。起きてたけど眠かったから声も出さなかったと?」
「そう」
「はぁ。心配して損したぜ」
慌ててた俺が馬鹿みたいだ。まぁ少女も本当に元気そうだし、何事もなくて良かった。一安心だ。
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