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七
俺は少女にハム次郎との思い出を語っていた。俺がどれだけハム次郎を愛していたか、ハム次郎を失ってどれだけ悲しんだかを、全て素直に話していた。
誰にも話せなかった。落ち込んでいる理由が「たかがハムスターが死んだくらいで」と言われるのが怖かった。きっと悪気なく周りの大人は言うだろう。俺の大事な家族に対して「たかが」と。
そう言われるのが本当に怖くて、俺は傷を抱えたまま旅に出たのだ。
「真剣に聞いてくれてありがとう。はじめて人に心の内を話せたよ」
俺は素直な気持ちで少女にお礼を言った。
「うん。気持ちを吐き出すのはとても良いこと」
少女が分かったようなことを言うので俺は少し笑ってしまった。少女も微笑み返してくれた。なんだか心が暖かくなる。
俺は少し照れてしまい、誤魔化すようにコーヒーに口をつけた。
いつの間にかコーヒーは冷めてしまっていた。俺は冷めたコーヒーをぐっと一息で飲み込むと席を立った。
「じゃあ俺は行くよ。マスター、お会計」
「待って。私も行く」
少女は少しだけ残っていたチョコパフェを慌てて食べると、席を立ってストーブの前に並べていた靴下を履き始めた。
「おいおい、別にゆっくりしていけよ。俺に気を使うことないぜ」
「案内したいところがある。付き合って」
少女がそう言うので、俺は従うことにした。どうせ暇だしな。
少女が着替えている間に会計を済ませようと財布を出すと
「お会計は良いですよ。旅行、楽しんでくださいね」
と店主が言った。
「ありがたいけど払うよ。格好つけて奢ると言った手前ね」
店主の好意にまた心が暖かくなった。店主もそれ以上は何も言わずにお金を受け取ってくれた。
会計を済ませると少女も着替え終わったようで、俺と一緒に喫茶店を出た。
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