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八
「こっち」
少女に言われるがまま後をついていくと、さっき少女を見つけた山の雪原に出た。
柔らかく弧を描く丘、遠くに見える針葉樹の森、それ以外はひたすら白い雪に覆われており何もない。
しんしんと降る粉雪が鼻の頭をくすぐる。静かな場所だった。
「寝転がって」
「え?」
「いいから」
少女がそう言うので、俺はその場に寝転がった。降り積もった粉雪が柔らかく背中に当たる。意外と冷たくない。むしろ少し暖かいくらいだ。
「そのまま目を開けて空を見上げて」
言われるがまま俺は空を見上げた。空は分厚い白い雲に覆われている。その空から粉雪がちらちらと舞い降りてくる。
視界は全て真っ白に染まり、少し眩しい。俺はまぶたを柔らかく閉じて、薄目で空を見上げる。
とても静かで、わずかに聞こえるのは近くに立っているはずの少女の息遣いだけだった。
ぽつぽつと顔に降ってはすぐに溶ける雪がくすぐったい。
「不思議な気持ちだ」
俺はぽつりと呟いた。
「でしょ?」
少女はそう言うと、俺のそばに腰をおろした。
「こうして静かに雪の降っている日に空を見上げて寝転がると落ち着いた気分になる」
少女は小さな声で語る。
「徐々に体温が奪われていって寒いはずなのになんだか少し暖かいの。何も考えられなくなって意識が溶けていく」
あぁなんて優しい声だ。
「体から力が抜けていって、思考も雪に溶けていく。私は私でなくなり、世界と一つになる」
そういうものなのか。俺は自然と納得する。
「きっととってもゆるやかに死に近づいていってるんだ。優しく幸せな死に」
そうだ。このままだと死んでしまうんだろう。
「これが死ならそう悪くない」
ぼーっとしたまま、俺はそう口にした。
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