王子様ではない

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昼は大体、菜穂と教室でお弁当を食べる。 菜穂は人一倍よく食べるので、最早弁当箱なんていうものに弁当は入っていない。 タッパーだ。 それもちょっと大きめのやつ。 ご飯ぎっしり、焼肉乗せ。 「……今日も部活男子弁当だね」 「まーね」 サッカー部の雅樹の弁当を間違って菜穂が開けたんじゃなかろうか。 きちんと手を合わせる菜穂は肩を持ち上げて見せた。 中学までは給食だったから、それほど大食いだとは思わなかった。 それが高校入った途端、食うわ食うわ。 大食い選手権みたいなやつに出られるんじゃないかと思う。 それだけ食べてるくせにスタイルいいんだから、ため息もでる。 「あ、ふーちゃんの卵焼き食べたい。お肉一口と交換して」 今日の卵焼きは海苔を渦巻き状に仕込んである。 有無を言わさず目の前に差し出されたお肉をパクリと食べた。 うまい。 「うまーっ。ふーちゃんの卵焼き、やっぱり美味いよね!」 「そ?ありがと」 卵焼きを入れた日は決まって一切れ食べるからすでに食べ慣れた味なはずだけど、美味しいと言ってもらえるのって嬉しい。 「それ俺も食いたい。あーん」 大きな体がふわりと隣にしゃがみこみ、口を開けていた。 「え、あ、えっと、……うん?」 「こら中野!あんたにふーちゃんの卵焼きは千年早いよ!」 びっくり……した。 中野くんは「ちぇー」なんていいながら、女の子に呼ばれて教室を出ていく。 はぁーって息を吐き出したら、菜穂が心配そうに顔を覗き込んだ。 「ふーちゃん、息止まってた。まだ怖い?」 最後のほうは小さい声で問いかける。 漸く笑って首を振った。 「大丈夫。本当にびっくりしただけ」 「そ?」 菜穂はそれ以上言わずに、大口開けてご飯を頬張った。 中学3年の冬。 塾の帰り道で、変な男に追いかけられた。 気が付けばかなり近くまで迫って来ていて、必死に歩く速度を速めた。 ちょうど後ろから自転車が通り過ぎて、変な男が転びそうになった隙に、走って逃げることが出来たのだけれど。 その時まで、怖くて早く逃げたいのに、なかなか走り出すことが出来なくて、あの自転車が来なければどうなっていたかと思うとぞっとする。 菜穂はそれ以降、こうして心配してくれている。 ありがたい。 これが親友って言うんだと思う。
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