王子様ではない

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「ちょっと!!」 菜穂が雅樹を睨みつけた。 それはもう、ものすごい形相だ。 菜穂、そんな顔しちゃいけないよ。 女の子なんだから。 「菜穂。お前はそういう顔するのやめろよ。恋愛、勉強して?くくっ、好きな人、作って?……ぷっ、彼氏欲しいなら?」 「ちょ、ちょっと雅樹、あんまり菜穂怒らせないで……」 あぁぁ、菜穂の顔が……顔がぁ! 「その顔じゃぁ、好きになってくれるやつ、現れねぇぞー。な?風香」 「えっ!?わ、私に振らないでよ」 「風香は?好きな奴、いねぇの?」 「……す、好きな奴!?」 「漫画のキャラとか、ナシなー」 「それはっ、……わかってるけど」 「ちなみに、中学の時、お前のこと良いなって言ってるやつ居たぞ」 「…………うそでしょ」 そんなこと、欠片も聞いた事が無い。 そもそも、この雅樹以外ではほとんど男子と会話すらしてこなかったのに。 連絡事項と、聞かれた質問の返事。 そこから楽しい会話が続いた記憶がないから、どこをどうして私を良いと思うのかもわからない。 え、やだ。 「ふーちゃん。怖くない。大丈夫。ふーちゃんが可愛いだけだから」 「……菜穂。褒めても何も出ないし」 「いい?ふーちゃん。恋愛って言うのはね、『この人かっこいいなぁ。優しくしてくれた。一緒に居たら楽しい。好き!』だよ!」 「だぞ。風香。俺はそろそろ“優しい”通過して“一緒に居たら楽しい”くらいまで来たんじゃねぇ?どうだ?“好き”になったか?」 ……ええと。 うーん、と。 雅樹はどちらかというとイケメンの部類だという(本人曰く)。 雅樹とは会話もスムーズにできるし、普通に楽しい。 優しくしてくれる。 「……」 「……うん?」 「…………」 「……風香」 「………………」 「いい。もう考えるな。眉間の皺はお前には似合わねぇ」 「ごめん」 「謝るな!!なんか、すげぇ切ないわ!!」 「いや、あの、ね。嫌いじゃ、ないからね?」 「嫌いとか言われたら俺泣く」 「ちゃんと、好きだよ?」 「友達として、だろ?」 「うん」 「ハッキリしすぎだろ!!このやろー」 「……いひゃい」 「くそ、この、もちもちほっぺめ!!」 「摘ままないでぇ」 「摘まむくらい、許せ!」 菜穂が私と雅樹のやり取りをじーっと見つめている。 口の端が何故か持ち上がっていて、この顔は大好きな少女漫画を読んでいるときの顔だ。
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